つ。

雑記帳

最後にめちゃくちゃにされたいよ

物語の最後の最後で情緒をめちゃくちゃにされるのが大大大好きです。

 

 

もうすぐ読み終わるなぁ~あ~……ってときに急に横っ面を張られて、え?え?え?ってなってる内に強制的に物語の外へ放り出されるのがたまりません。お話は終わりだけどこっちの情緒は追い付いてないよ!余韻がえぐいよ!!ってなって、でも日常に戻らなくちゃいけなくて……

映画の場合だと、朝一で映画館で映画を見て、感情を揺さぶられまくって、心の整理がつかないままエンドロールが終わって、他のお客さんのあとに付いていくようにシアターを出て、心も体もふわふわしたまま建物の外に出て帰路に就く……までのワンセットがたまりません。ひたすら映画のことだけ考えてバスに乗るあの感じが楽しいんですよね。

 

ということで、ここ1ヶ月程で心に残った作品のまとめメモです。情緒がいい感じに引っ掻き回されて楽しかった……ネタバレ普通にしてます~

 

 

 

 

まず1冊目!

「さよなら絵梨」

藤本タツキ作品に関しては厄介オタクの自覚があるので、あまり他の人と感想を共有したくないんですよね…… チェンソーマン 第二部も楽しんでいますが、気持ち的にはどこかの無人島にでもある施設に隔離されて、 チェンソーマンのページにだけ繋がる端末でひとりきりで読ませてほしいよ~~~って感じです。厄介オタクがすぎる。

さよなら絵梨が公開された当時は色々あって残念ながら読める状態になかったので、単行本化してから読みました。その頃も相変わらず心身ともに低迷していたのですが、「フツーに聞いてくれ」がこれまた刺さって、急いで「さよなら絵梨」を買いに行った形です。

感想うっすら聞いてた感じ、賛否両論?らしいけど、どうなる……!?とドキドキしながら読みましたが、これがまたすご~~~~~~く良かった。

200ページある、短編としてはちょっと長めなお話のはずなのに一度も途中で本を閉じることなく、駆け抜けてしまいました。読み終わって暫くぼーっとして、そのあと無駄に部屋の中をぐるぐるしました。

さよ絵梨は絶妙な言葉選びとかそれぞれのコマの見せ方とか見開きの使い方とか、技術面で考えると色々すごいと思える部分が浮かんで……でも、そういうの取っ払って感情だけで考えると、どこがいいのか具体的には何も言えないけどとにかく良かった!!!!みたいな不思議な漫画でした。一応、物語のラストに着地した今でもこの漫画をどう解釈すればいいのか、この感情をなんと呼んだらいいのかわかりません。ストーリーの解釈についても、色んな方の考察や感想を漁ってみて自分なりに考えたりもしたのですが、どうにもうまくいかず……とりあえず、解釈とかわかんないけどおもしれー!!すげー!!!に落ち着かせました。数年後に読み返したらまた違った感想が生まれるんだろうな。

ちなみに一番印象に残っているのは「この頃より随分老けたね」のとこです。

 

 

 

2冊目!

小川洋子と読む 内田百閒アンソロジー

人生初の内田百閒でした。

そもそも私が小川先生の作品と出会ったのは小学生か中学生くらいのときで、最初に読んだのが「博士の愛した数式」でした。瑞々しい文章と柔らかであたたかい物語に感銘を受けたました。今でも心に残る作品のひとつです。この先何年か生きても、オールタイムベストには入っているだろうなと思っています……。

博士の~に感動した私は他の小川作品にも手を伸ばしてみたわけですが、当時はあまりピンと来ませんでした。小川先生の作品は幻想小説的なものが多く、むしろ博士のほうがちょっと浮いてるんですよね。今でこそ幻想的なものや耽美系の話も好きになりましたが、当時はそう言った作品をあまり読んでいなかったので小川作品とは長らく距離がありました。それからしばらくたって、皆川博子作品や川端康成三島由紀夫の「真夏の死」にはまってもっとこういう系統が読みたい!となり、巡り巡って小川洋子作品に戻ってきました。

今回、同じくちくま文庫から出ている内田百けん集成ではなく、こちらを選んだのは小川先生が選んだなら好みに合うのありそう~みたいな理由です。「小川洋子の偏愛短篇箱 」が結構面白かった記憶があったので……。

 

とっつきにくかったらどうしよう……と思いながら読み始めた本でしたが、面白かったです。ホラーや幻想的な話もあれば、心があたたまったりきゅっと切なくなるような人と人との交流を描いた話もあってこちらを飽きさせない構成……!「鶴」とか3ページなのに感じる不穏さと情景の美しさよ……「鶴」や「件」、「桃葉」は内田百閒入門にちょうどいいのではないかと思います。

 

で、今回私に最もぶっ刺さったのが「柳検校の小閑」です。

 

刺さりすぎて死ぬかと思った。のたうち回りました。正直、今回の本命は「サラサーテの盤」だったのですが、「柳検校の小閑」があまりに深く刺さって思っていたよりあっさり読み終えてしまい、めちゃくちゃもったいないことをしたな……と思いました。サラサーテも良いんですよ。ツィゴイネルワイゼン観よ~って思いましたし……でも、本を読み終わるまで柳検校の小骨が喉に刺さったままでした。今も残っています。

「柳検校の小閑」は語り手である検校 柳先生とその弟子である三木さんの交流を描いた作品です。と言っても、ふたりの会話は物語全体を見るとそんなに多くありません。柳先生の日常生活の要所要所に三木さんとの交流があるイメージです。二人の会話は少ないながらも、そのテンポ感とか距離感がなんとも言えずいいんですよね……特に九章のやりとりが好きです。ひゃ~とか言ってたら第十章で絶句しました。こんな終わり方なんて………………。読み終えてから改めてタイトルを見返して、だから「小閑」なのかと腑に落ちました。十章ではもう17年も経っていて、柳先生にとっては三木さんと過ごした時間より彼女のいない人生のほうが遥かに長くなっているんですよね。おそらく柳先生の人生はこれから何十年か続くでしょう。続けば続くほど、三木さんのいない人生のほうが長くなっていきます。そんな長い長い人生の中で、三木さんと過ごした時間は柳先生にとっての「小閑」になるんだな……と。「小閑 すこしのひま」……わ~~~ん!!!最後の一文がもう愛じゃん……。小川先生の解説文もまた染みます。とにかく精神をぎたぎたにされた一作でした。

 

 

3冊目です。

川端康成異相短篇集」

最近出た本!

川端康成先生にはラストで殴ってくる力強い~~……と思わされたことが何度もあります。「伊豆の踊子」のラストとか、「母の初恋」の雪子の最後のセリフには思わず感嘆しました。

今回最後にめちゃくちゃにされたのは「白い満月」です。

このお話、実は途中まではあまり乗れていなかったのですが終盤に主人公の妹である静江が亡くなり、お夏と再会してから徐々に引き込まれていきました。ほんとに終盤ですね。お夏と主人公の会話の運び方がなんだかいいなあと思っていたら、最後の最後、お夏の「私よく先生の夢を見ます。──痩せましたね。──胸の上の骨が噛めますね。」というセリフにガーンと殴られました。殴られて余韻に浸っている内にお話が幕を閉じてしまう。川端作品はこういうことが度々あります。こんな……こんな締め方ある!?!?!?次の「地獄」書き出しも中々なのにこの台詞に結構引っ張られてたよ……。

 

中盤でぐちゃぐちゃにされたパターンだと朝雲も良かったですね。

主人公 宮子と母があの方こと菊井先生と並び歩くシーン。

「宮子さんは、お兄さんがおありですわね。よそへお出しになりますの?」と、あの方は不意におっしゃった。「はあ、いつまでも子どもで困ってしまうんでございますよ。」と母は答えた。「そうでもありませんわ。もし学校へ聞き合わせがあったらなんと言いましょうかしら。」と、あの方は私の方を向いて、「感情の激しいお嬢さんだって言いましょうかしら。先生はずいぶんいじめられましたって。」私はくらくらと目の前が暗くなった。きゅっと息がつまった。「嘘よ、そんなこと。」と、あの方は明るく笑っておしまいになったけれど、私は並んで歩いているのが苦しかった。

うわっ…………!!!!まあ、この後先生のフォローが入り、宮子は幸福を感じるのですが……。

なんかこのシーン……来るものがあるというか……やばいですよね。このシーンまで宮子は菊井先生に積極的に近づいたり、そうと思えばつれなくしてみたりと情熱に浮かされて空回っているのですが、そんな状態のところにこの言葉がぴしゃんと浴びせられるのが……こう…………。母親の前で、でも母親には絶対にそうとは気づかれないよう向けられたこの言葉が……。

 

これからももっと川端作品読みたいですね……。

 

 

ラスト!

「嫌がってるキミが好き」

 

1巻読んだのはちょっと昔です。続き気になるな~と思っていたら完結したことを知り最終巻まで購入しました。今ならDMMで1~7巻まで70%pt還元、8巻は50%pt還元中なので気になる方は読んでみてください。

 

いや、なんかもうこの1巻と8巻の表紙の対比の時点で辛い……!!!!!でも最後まで読むとこの表紙にしかならないよね~って感じですね。この二人が白川みことと大槻まことである限り、ふたりとも心から幸せそうな表紙はありえないんですよ。7巻がポップでキュートな期待しちゃったけど……。

みことちゃんがどんどん目覚めていく様子は、おいおい……と思いつつも、このふたりなりの幸せな形に落ち着くだろうと思っていたんですよね。この8巻内でも、ほんとに直前までギャグっぽい明るいノリだったしさ……みことちゃんメイド回と最終回は同じ巻に載せていい内容じゃないよ。

 

まことくんが本物のみことちゃんを愛していたのか理想の彼女を愛していたのか問題については、私はまことくんは本当にみことちゃんを愛していたのだと解釈しました。

序盤のまことくんはお兄さんとのこともあり、みことちゃんを愛し彼女に嫌がられ続けることで自分を肯定したい思いもあったのだと思います。そもそも、まことくんがお兄さんにかけられた呪いは強大で、みことちゃんの嫌がる顔は大好きなはずなのに、お兄さんと同一視され軽蔑されることは激しく否定したり……それなのに本人も気づかぬ内にお兄さんに受けつられた価値観で愛情を示してしまったり……自分がしていることとお兄さんがしてきたことは同じなのだと気づき、さゆりさんの存在を認めた時点でまことくんにかけられた呪いは解けていきました。でも、その時点でもうみことちゃんは大分堕ちてしまっていたんですよね……普通のデートをしてみたり、これからなんとか丸く収まる方向にいくのか……!?と思わせたところで、秀一さん事件……はっきり自覚してしまうみことちゃん……辛い…………。あの事件がなければ……と思わなくもないですが、まあ遅かれ早かれだろうなあと思います。この二人のエンディングはもう決まっていて、事件が起きたことで少しそれが早まっただけのように感じました。まことくん本人も「ボクたちにハッピーエンドなんてないんだよ」って言ってたし……。

結果的にはああいう終わりだったわけですが、あの事件が起きるまでまことくんは葛藤しつつも今のみことちゃんに適応しようとしていましたし、別れのシーンも愛していたからこそ手放したと思うんですよね。好きだから。好きでいたいから。

8巻ラストのみことちゃんを思い出すシーンで、まことくんが大好きな嫌がってる顔以外のみことちゃんも思い出していたのが最大の答えじゃないのかな。

 

一方のみことちゃんはまことくんが好きだったというか……どちらかというと雛鳥が最初に見たものを親と思い込む「刷り込み」に近いというか、執着のような終わりだったと思います。みことちゃんはどこまでいっても自分が一番大好きです。自分しか見ていないから、まことくんが求める”白川みこと”に気づけません。でも、それを理解してまことくんの理想の嫌がり続けるみことちゃんになれてしまったら、まことくんの好きなお馬鹿なからっぽ女のみことちゃんじゃないんですよね。

価値がある子に戻ると言った割に、最終話のみことちゃんはそういう努力をするわけでもなく快楽に流されていますし……多分、みことちゃんのことだから最初の最初は努力しかけたんだと思いますよ。でもすぐに楽な方にいっちゃったんだろうなあ。

 

恋ではないけど、最後に思い出すくらいにはみことちゃんにとってまことくんの存在は大きく、自分を本当に殺してくれる相手として想像するくらいには恋に近いなにか……は流石に甘い妄想すぎますかね。みことちゃんは本当はまことくんに殺されたがってたんだよ!とまではいかないですが、せっかく殺されるならまことくんがいいなあくらいは思っていてほしいです。

 

あと、みことちゃんの性質についてはまことくんに変えられたというよりは元々持っていたものが開花しただけだと思っています。多分、秀一さんとでもいずれ開花したとだろうし、私的には秀一さんとのほうがこれ系のカップルの終わりとしてはハッピーエンドを迎えたんじゃないのかなと最後まで読んで思いました。秀一さんとなら、秀一さんがみことちゃんを殺して終わりだったんじゃないのかな~……ネカフェの話とか、なんかきらきら感があったじゃないですか……恋愛の波動というか……。

 

私は物語途中で主人公組との対比で存続を危ぶまれるふたりがラストにはなんだかんだベストな形に落ちついていて、一方主人公組は別れている……みたいなシチュエーションが好きなので、ラストのお兄さんとさゆりさんの関係にはにやけました。あの1ページでお兄さんもまた、まことくんの呪いから解放されてるのがわかるのすき……。

お兄さん&さゆりさん関連だと、まことくんが思い描いた自分たちとの対比が結構衝撃的でした。お兄さんとさゆりさんは、さゆりさんが首輪とリードを着けられた状態でお兄さんの足元に座り、リードをお兄さんが握っている状態でしたけど、みことちゃんとまことくんはふたり並んで立っている状態なんですよね。手も繋がず。まことくんの愛の変化をよく表しているいいシーンだと思う一方、そのままラストの展開も表しているようで切なくなります……。

 

あとがきの、まことくんはみことちゃんのような存在にまた出会ったら今度はその人間が芯になる……という鬼山先生の言葉にはでしょうねと思いました。本人がその類の発言してましたしね……まことくんは誰に対しても、多分いなくても生きてはいける強い人で…でもいないと人生つまらないなみたいな枠に入れている内に死ねたことはみことちゃんにとって幸福なのかもしれません。

初めて読んだときは、今後まことくんがみことちゃんの死とその理由を知っちゃったらどうなるんだろう~って思ったんですけど、冷静に読み返したら△年前ってなってるしスマホもPCもほぼ触らないまことくんが知る機会は永遠にないな……。そういう意味でも、彼に新たな芯が現れるまでの間は、かつてのベストパートナーでいつか会いに来てくれるかもしれない理想の存在として心に棲み続けられることが確定したのは幸せ……?でも想像してるの学生時代のみことちゃんで、死ぬ直前のみことちゃんじゃないじゃん!と言われたらそれまでですが……。

 

ラストの表情もな~~~~!!!!!!!これ、ストレートにまことくんが想像する理想の”嫌がってるキミ”と解釈していいのかな……でも、嫌がってるというよりは悲しそうにも見えるんですよね……。リンドウの花言葉は「悲しんでるあなたを愛する」らしいのですが…嫌がると悲しむはイコールじゃないしな……。幽霊説を唱えてる方もいて、それはそれで別のロマンがあっていいなと思いました。

 

感想や解釈を書いても書いても書ききれないというか、書いてる内にこの解釈あってるのか……?ってなる不思議な漫画でしたね。めちゃくちゃ良い感じに感情をぐちゃぐちゃにしていただけて楽しかったです……同じ癖を持った方は今すぐ読んでください!繰り返しになりますが、DMMだと25日までお得に買えるので……!!!!

 

 

 

また最後にめちゃくちゃにしてくるタイプの作品に出合いたいです。